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FILE10  「海外観戦のススメ」


 「編集者の独り言」でもお知らせしていますが、今月でスポーツイベントを退社することになりました。というわけで、担当していていたこのコーナーも一応最終回にさせていただきます(残った編集部員が僕の遺志を継いでくれれば、復活もあるでしょう)。

 最終回は、選手紹介ではなく「海外観戦のススメ」です。

 これまで8回に渡って、僕がチュニジアでの男子世界選手権で印象に残った選手たちを紹介してきました。
 書くたびに自問してました。「この選手のすごさを説明できたかなー」。正直、自信はありません。自分の筆力では、そこまで表せていなかっただろうな、と。

 このコーナーの趣旨として、初めて海外の試合を見るときの“予備知識=ガイド”として使ってもらいたいという気持ちがありました。ひそかに「そのうちスカパーあたりで、ヨーロッパのハンドボールリーグも放送されるようになるのでは」と予想していたので、使い勝手の良いコーナーになるのではと思っていたんですが…、残念ながら2006年1月現在、そんな気配はありません。依然として、日本では一般ファンが世界最高峰のハンドボールに触れる機会は非常に少ない状況が続いています。

 でも、見て欲しいんだよなー。日本のハンドボールしか見たことない人には是非、世界のハンドボールを一度でいいから感じてもらいたいんです。

 ハンドボール専門誌の記者として活動させていただいた4年の中で、僕はそういう機会に恵まれました(少ないですけど)。やっぱり、日本では感じることができないことを感じるし、いろいろなことを考えさせられますよ。

 まずは「絶望」。
 やっている選手たちにはそんな気持ちを持ってもらいたくはないですけど、見ている人間としては感じざるを得ませんでした。

 だって、日本人の中で間違いなく大型選手の部類に入る190pの選手がサイドやったりしているんですよ。で、そいつが足が遅いかって言ったら充分すぎるほど速いんですよ。そして、そんなやつがベンチにもゴロゴロいて、次々に交代でコートに出てくる。
 
 よく日本人の良さはスピードとかどの競技でも言いますよね。確かにそうだと思います。でも、ハンドボールに限って言えば、同等か、若干上回ってくるくらいだと思います。それで、パワー、スケールで圧倒されるから、そのスピードが生きる場面も限られてくるというわけです。

 世界のベスト5以上はだいたいこんなチームです。正直、ここにたどり着くのは厳しいかなと思うレベルです。でも、その下のベスト10くらいは、まだ“戦える”って感じられるレベルなんですよね。

 まずは、その差をしっかりと目で確かめるべきだと思うんですよ。レベルの差を知ってから、「じゃあどうする?」と策を考えるわけですから。選手や指導者は当然で、実際にみなさんが研究していますが、一般ファンもそれを知っておいていいと思うんですよ。

 たとえば、日本リーグの試合で、ファンが「そんなちんたらしたプレーじゃ世界で通用しないぞ!」とか「でかいだけじゃなくて走れ!世界じゃ走れない奴は使えないぞ!」とかそんな野次がとぶ。そんな時代が来たら、日本のハンドボールのレベルは、相当あがっていると思いますよ。

 「絶望」の話からしてしまいましたが、「希望」もあるんです。

 だって、ハンドボールの会場に1万人を超える人が集まるのを見たことがありますか?その雰囲気だけで圧倒されるし、テンションあがりますよ。

 1万人は世界大会規模ですけど、ヨーロッパのリーグ戦では3千人くらいは平均で入っています。それもただの3千人じゃないですよ。みんなハンドボールを知っている人たちです。そいつらと見るハンドボールって楽しいですよ。

 僕はスペインでバルセロナの試合を見たときのファンのリアクションが忘れらない。
 微妙なジャッジングが起こったとします。こんなとき、日本ならば、そのチームの選手、ベンチが声をあげるだけですよね。会場は意外とシーンとしている。このギャップが悲しい。

 でも、バルセロナでは違いました。会場を埋めた、おっさんたちが総立ちで口笛みたいの鳴らして、審判に抗議するんですよ。それこそ、選手より先にリアクションするくらい。あー、こいつらも選手と一緒に戦っているんだなと実感します。

 でね、これがヨーロッパだから、って片付けたらそれでおしまいだと思うんですよ。僕はそうは思わない。

 ハンドボールには、それだけの魅力があるという証明だと思うんです。それが、日本であろうと変わりはないんですよ。ヨーロッパ人と日本人、確かに違いはあるけど、同じ地球人でしょ。
 
 ハンドボールは人を熱狂させる力があるという事実はどこに行ったって変わらない。
 今は日本がそういう時代になっていないだけ。100年もすれば、ヨーロッパみたいになってるかもしれない。
 僕はヨーロッパのリーグを見たときに、そんな希望を持ったんですよ。

 だから、もしまだ見たことがない人がいて、最近観客が増えたとはいえ、まだまだ盛り上がっているとはいえない日本のハンドボール会場にどこか虚無感を覚えているとしたら、ヨーロッパのリーグを見に行って欲しいんですよね。絶対、希望が持てますから。

 てなわけで、とにかく僕は「海外観戦」をお薦めします。お金がない? 時間がない? もちろん、そうです。無理は言いません。でも、もしヨーロッパに旅行する機会があったら、思い出してみてください。
 シーズン中なら、おそらくほとんどのヨーロッパ地域でハンドボールの試合をやっています。名所を観光した翌日にハンドボール観戦ができるかもしれません。ネットの発達はすごいですからね。各国のリーグ戦の日程などは、気合があれば、いくらでも探せます。

 そうやって、本場に触れた人が日本に帰って友達にその話をすれば、情報や雰囲気が少しでも伝わっていく。また、テレビ放映がない限り、この地道な方法で広めていくしかありません!

 僕は信じていますよ。100年後は生きていないだろうから、せめて50年後くらいに、日本のハンドボール会場があのスペインで見たような「雰囲気」になっていることを。

                                       (このコーナーの文責・大河内博雄)