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FILE4   北欧の大砲     クリスチャン・ケリング (ノルウェー代表)

                         
                         KRISTIAN KJELLING

 PERSONAL DATA
 生年月日/ 1980年9月6日 24才(2005年4月30日現在)
 身長・体重/ 197p・94s
 ポジション/ バックプレーヤー(エース)
 所属クラブ/ アデマール・レオン(スペイン)
 公式国際試合/ 57試合出場188点 
 第19回世界男子選手権での個人成績
   9試合181分出場 50点(8位) シュート成功率60% 


 大会前、私が「生で見てみたい」と思っていたプレーヤーの1人がこのケリングである。
 以前、TVK(テレビ神奈川)でスペインリーグを放送していたことがあったが、その番組の中で見た彼のプレーは私にとって衝撃的なものだった。

 目を奪われたのは彼のシュートフェイントである。
 
 思い切り腕を振ってロングを狙うケリング。DFがシュートブロックをするために飛びあがる。
 しかし、ボールはまだケリングの手に握られていた。
 このフェイクにひっかかった相手DFを尻目に、ケリングは悠々と得点をあげた。
 
 自ら『空振り』してのシュートフェイント。初めて見るフェイントだった。
 日本でも7mTの場面でやる選手はいるが、ロングシュートでこのフェイントをする選手は見たことがない。
 
 一般的なシュートフェイントは“威嚇”の域を出ないが、このケリングのフェイントは違う。正対するDFにしてみたら、腕を振りきられたら、シュートが飛んでくると思うのは致し方がないだろう。反応せざるを得ない。
 なにせ、最後尾のGKがこのシュートフェイントにひっかかって、反応しているくらいだ。
 テレビカメラも完全に騙されてる。飛んでもいないシュートを追ってGKの方にカメラを向けてしまっていた。
 
 すべてが初めて見る光景だった。

 彼がこのフェイントができる理由を考えてみた。まずは、相当に「握力」が強いことが大前提だろう。彼は思いきり腕を振っている。握力がなければ、ボールがあらぬ方向へと飛んでいってしまうはずだ。そして、肩も強いだろう。いくら意図的なものとはいえ、「空振り」というのは、力が逃げないわけだから、体に負担がかかるものだ。それに耐えうる丈夫な肩が必要不可欠だ。そうした肉体的資質を兼ね備えたプレーヤーは恐らく世界のトップレベルの選手でも限られているはずだ。

 このフェイントを生で見たいと思って見たノルウェーの2試合。残念ながらそんなシーンに巡り会うことはできなかった。
 
 出場時間も限られていたから、ベストの体調ではなかったかもしれない。それでも、彼の能力の高さは随所に感じることができた。
 真骨頂は2次リーグ・クロアチア戦。ノルウェーが王者から金星をあげた一戦である。
 
 今大会のノルウェーは非常に好感が持てるチームだった。組織だった守備から素早い速攻。しっかりとしたボール回しからノーマークを作り出すセットOF。洗練された、ソリッドな攻守がじつに心地よかった。そうした「組織」のカラーが強いチームにあって、ケリングの強い「個」が絶妙なアクセントとなる。

 クロアチア戦では、速攻が出なくなったところで、ずどんと重たいロングを撃ち抜く。この試合5本試みたロングを4本決める正確さ。そして、ロングが警戒されるとみるや、カットインで中央を駆け抜ける。
 
 良いキャッチフレーズが思いつかず“大砲”と書いてしまったが、決して“重い”印象を持って欲しくない。
 本誌4月号で紹介した得点王・ハマム(チュニジア)のようにアスリートタイプのエースだ。クロアチア戦で追い上げられた終盤に、退くことなく得点を狙った精神面もエース向きだ。貴重なダメ押し点は彼の手から生まれている。
 
 今大会、あのフェイントを目撃できなかったのは心残りだが、まだ24才とあって、これから大舞台で彼の勇姿を見るチャンスも多いだろう。
 楽しみは先にとっておこう。