FILE5 馬力&機動力型ポスト イッサム・テジ (チュニジア代表)
ISSAM TEJ
PERSONAL DATA
生年月日/ 1979年7月29日 25才(2005年5月31日現在)
身長・体重/ 187p・95s
ポジション/ ポスト
所属クラブ/ セレスタ(フランス)
公式国際試合/ 147試合出場245点
第19回世界男子選手権での個人成績
10試合493分出場 37点(23位) シュート成功率70%
これまで紹介してきた4人はいずれも本場ヨーロッパ地域の選手たち。
今回は、非ヨーロッパ地域の代表としてチュニジアのテジを紹介しよう。
今大会、大旋風を巻き起こしたチュニジア。非ヨーロッパ地域としてはエジプト以来となるベスト4進出を果たした。
本誌4月号でもリポートしているように、地元開催で様々な恩恵をこうむったことは事実だが躍進は決してフロックではない。3:2:1や4:2を敷いたアタックDFや、クイックスタートの多用など、ヨーロッパ勢とのフィジカルの差を埋める戦術があったのだ。
戦術ばかりではない。もともと、フランスリーグを主戦場にしている選手が多く、個々の能力にも光るものがあった。中でも23才のエース・ハマムは“次代のスーパースター”が誕生したと思うほどに素晴らしいパフォーマンスを見せた。そのハマムについては、本誌の中で取り上げているので、ここでは、ハマムの次に印象に残ったポストのテジについて話したい。
皆さんはポストというポジションについてどんなイメージをお持ちだろうか?
おおざっぱに言えば、ターゲットマンとして有利な長身を持ち、激しい位置どりを制することができるフィジカルを持った「長身大型パワー」タイプと、小柄ながら、DFのすき間にするりと入り込める瞬発力と戦術的センスを持った「機動力&センス」タイプに分けられると思う。(もちろん長身&センスなど重なり合うタイプは存在するが)。
世界の舞台で考えた場合、圧倒的に優勢なのが前者である。優勝したスペインのポストトリオが象徴的だ。ガラバヤ(201p、107s)、ウリオス(193p、105s)、ペレス(200p、100s)。2m、100s級のサイズが標準仕様だった。
そこで、このテジである。身長187pというが、周りが2m級とあって、より小さく見える。そんな彼がポストプレーヤーとして存在感をしっかりと示すのだから面白い。37点は全ポストプレーヤーの中で3位の数字だ。
大男の中で彼が生き残る術。1つは機動力である。速攻の先頭を切れるスピード。チュニジア代表にとって、得点の4割を占める速攻が大きな得点源だったが、テジが決めた速攻11本は、チーム内で2位の数字だ。
また、クイックスタートでも先陣を切り、ボールをもらうと勢いに乗ったまま、1人で相手DFに切り込んでいくシーンは1度や2度ではなかった。速攻やクイックスタートにポストが参加することは現代ハンドボーでは常識で、他チームのポスト(スペインなどの大型ポストも含め)もその例に漏れないが、その中でもテジのスピードはダントツだった。
機動力に加え、意外なことにパワーでも、自分よりはるかにサイズで上回る相手に引けをとらなかった。
その理由は、“重心の低さ”にある。テジのプレーは、日本の大相撲で、大型力士に立ち向かう小兵力士の姿を思い起こさせる。体重=パワーで叶わない小兵力士は、体をかがめ、腰を落とすことで、大型力士の圧力を下から食い止めようとする。このとき重要なのは重心の位置である。大型力士にとって、自分の腰より低い位置は、なかなか力が入りにくいものだ。
テジのプレーもこの原理を利用している。95s、重さはある。写真のように、相手DFに上から押さえつけられても、下からグイッと押し込んで起きあがり、シュート体勢に持ち込めるだけの馬力があるのだ。足腰が相当に強い。
スペインのポストプレーヤーとぶつかったある日本人選手は「体を触った瞬間に『コイツは止められない』と思うほど、フィジカルが強かった」と振り返っていた。
ヨーロッパ地域と非ヨーロッパ地域で体格、フィジカルの差が存在するのは人種が違う以上、仕方のない部分がある。
しかし、テジのプレーを見ていると、その差を少しでも埋めるやり方、工夫もあるのだなと、勇気がわいてくる。