FILE8 王者を語る。 ラツコビッチ、ジョンバ、ボリ(クロアチア)
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BLAZENKO LACKOVIC | MIRZA DZOMBA | IGOR VORI | ||
PERSONAL DATA 生年月日/1980年12月25日 24才 (2005年8月26日現在) 身長・体重/195p・92s ポジション/バックプレーヤー 所属クラブ/フレンスブルグ (ドイツ) 公式国際試合/71試合出場238点 第19回世界男子選手権での成績 10試合402分出場 46点(11位) シュート成功率53% |
PERSONAL DATA 生年月日/1977年2月28日 28才 (2005年8月26日現在) 身長・体重/190p・86s ポジション/右サイド 所属クラブ/シウダーレアル (スペイン) 公式国際試合/143試合出場552点 第19回世界男子選手権での成績 10試合484分出場 62点(3位) シュート成功率74% |
PERSONAL DATA 生年月日/1980年9月20日 24才 (2005年8月26日現在) 身長・体重/202p・92s ポジション/ポスト 所属クラブ/バルセロナ (スペイン) 公式国際試合/56試合出場146点 第19回世界男子選手権での成績 10試合508分出場 37点(23位) シュート成功率64% |
今回は、3人の優れたプレーヤーを紹介しながら、クロアチアというチームについて語りたい。
クロアチアは、現在、世界最強と呼べるチームである。この世界選手権では決勝でスペインに敗れて準優勝に終わったものの、前回世界選手権−アテネ五輪を連覇して、ビックタイトル3連覇にあと一歩まで迫った実績は、大いに称えられるべき偉業である。
さて、このクロアチア、見ていて勉強になるチームだと紹介したい。「ハンドボールとはこうするんだよ」と教えてくれるチームなのだ。
優勝したスペインが典型的だが、ヨーロッパの強豪国の中には、パワーとフィジカルを前面に押し出したハンドボールを展開する国も多い。
確かに迫力は満点だし、強いのはわかるが、先天的に体力で劣る日本人からすれば「そのプレーは、日本人には無理だよ。反則だ」とあきれてしまうプレーも多く、すごいとは思っても参考になるとは思えるところまでには至らない。
だが、クロアチアは違う。日本よりはフィジカルでは上だが、世界の中では決して、ダントツに大きいサイズはない。パワーで押し切るよりも、組織的、理詰めのハンドボールを展開するのだ。
GKショラのキーピングから繰り出される速攻も大きな武器だが、今回はとくにセットOFに注目したい。優れた個々の6人が織りなすコンビネーションには、思わず「巧い」とうなってしまう、あうんの呼吸が存在する。
第1回で紹介したバリッチの項でも書いたが、プレーはいたってシンプルである。ハンドボーラーならば、誰しもが理解できる動きだろう。
起点はセンター・バリッチ。この世界最高の司令塔が攻撃を操る。バリッチが状況を判断する。最初の選択肢はこうだ。前が空いている、GKが油断していると見れば、ステップ気味にシュートを打ち込む。それがダメならば…、次はクロス気味に入ってくる両45度にパスを供給(バリッチはブロックに入る)する。
ここで、ラツコビッチの出番だ。本来ならば、右45度にはメトリチッチという素晴らしい左腕がいるのだが、今大会は負傷で、本来のキレ味を欠いたため、彼の打力が頼りになった。エースポジションでの195pは世界基準では決して大きなアドバンテージにならない。しかし、彼には抜群のジャンプ力がある。2mを超える大男の上をいく打点の高いミドルを打てるのだ。強気にシュートを打てるのもエースにふさわしい。
もちろん、ここで打てない場合も多い。バリッチには、もう一つの選択肢がある。ロングを警戒してDFが前に出れば、当然、中央が手薄になる。付け加えるならば、バリッチには馬力に優れたカットインもあるので、DFが当たりに行かないといけない事情もある。中央に隙が生まれれば、仕事をするのがポスト・ボリだ。
このバリッチ−ボリのポストプレーは必見である。まずはバリッチのアイディア。DFの股を通したバウンドパス。背中越しにノールックで出されるパス。あとで、ビデオのスロー再生で確認してみると、どうしてそんなプレーが思いつくのかというひらめきがある。DFが騙されるのだから、キャッチするボリのパスを感じる能力、そしてポジショニングも見逃してならない。ちなみに、202p、92sのボリは、速攻にも飛び出せる機敏性も持っている。当時は地元の国内クラブに所属、まだ、24才だし、「いいポストだからお買い得だな」と思っていたら、案の定、今シーズン、スペインの名門・FCバルセロナに引き抜かれた。
ロングも怖い、ポストも怖いとなれば、中央を厚く守らざるを得ず、仕方なしにサイドはGK勝負と割り切るチームもあるだろう。だが、その選択肢はクロアチアにはギャンブルに近い。サイドにはジョンバという世界屈指のウィングプレーヤーが控えているからだ。熊本世界選手権にも出場したキャリア豊かなジョンバは国際舞台で500点を越える得点をあげている。その数字は、ジョンバのマルチな得点能力を示すものだ。ノーマークのサイドシュート、上に上がってのミドル、抜群の飛び出しを見せる速攻。そして、一番の見せ場は7mTかもしれない。今大会は33本中29本の7mTを沈めた。外したのはわずかに4本。世界の舞台では、GKのレベルも当然上がる。7mTを決めることもそう簡単なことではない。彼の7mTは技巧派に属するだろう。シュートスピード、タイミングを微妙に変えて、GKを惑わせる。
クロアチアのセットOFは以上のようにじつに簡単な流れなのだ。決して、複雑なフォーメーションプレーは存在しない。どうして、止められないのかと思うかも知れないが、それは、個々の能力が抜群に高く、1つの1つのプレーを速く、正確に行なうことができるから。とくに優れているのが判断の速さだと思う。ハンドボールをしているものならば、説明したようなプレーの構造は誰にでも理解できる。ビデオのスローで確認すれば、納得できる基本的な動きばかりだ。ただし、頭で理解できたとしても、それを実際にコート上で表現できるかはまったく別の話。まして、世界のレベルではDFのプレッシャーの強さは日本で見ているものの比ではないのだ。しかし、クロアチアの選手たちはそれができる。その優れた判断力と、またチームとしてビジョンを共有できているからこそ、機械のように正確なコンビネーションを構築できるのだろう。
基礎をベースに、例えばバリッチのパスやラツコビッチの強打や、ボリのパワフルな突破や、ジョンバのテクニカルな7mTとか優れた個人技がアクセントとして加わり、クロアチアというチームのプレーが完成するのだ。
そうしたスーパープレーはともかくとして、改めて強調したいのは、クロアチアのプレーは極めて基本に忠実であること。レベルが高いのは間違いないが、初心者から日本リーグ選手まで誰もが、納得でき、うなずける最高の教科書だと僕は思っている。